よもやま話
ピアニスト 辛島文雄
日本のジャズピアニストのナンバーワンといえば辛島文雄さんだろう。私は自分でも楽器を演奏するが、それより何より「聴き手のプロ」を自認している。日本人の演奏がまだ本場のジャズに遠く及ばなかった時代から、ずっと聴き続けている。
辛島さんの演奏は彼が20代のころから聴いているが、50歳を越えたあたりから素晴らしく円熟してきた。以前は「俺はブルースなんて弾かない」などと偉ぶっていたが、最近は嬉々として普通のブルースを弾いている。原点に戻って音楽を楽しんでいるように見える。歌い上げるようなピアノから豊かな情緒を感じる。
日本には古くから、「守・破・離」という言葉がある。「教えを守り」「自分なりの発展を試み」「最後は型を離れて独自の世界を創り出して行く」、というものだが、辛島さんは今まさに「離」をピアノで表現している。
最近出したジャック・ディ・ジョネットと組んだピアノトリオのCD「グレートタイム」は最高傑作と言えるだろう。あの天才ドラマーとこういう演奏ができるというのは、やはり辛島さんも天才なのだろう。今がまさに絶頂期なのではないかという気がする。
また今年もトリオのツアーが決まった。今回のドラムは前回のツアーと同様高橋信之介だ、昨年のツアーの時よりシンバルレガートが素直になって全体的にノリが良くなっている。このドラマーは今どんどん成長している。アメリカで相当鍛えられているのだろう。このトリオは聴かないと損だ。
一度辛島さんの演奏を生で聴いてほしいと思う。本当にふくよかな、かつ刺激的な演奏が聴けるはずだ。