よもやま話
人事制度を超える社員
荒川静香がオリンピック決勝のフリー演技でイナバウアーという技を行った。これは前項で言った採点方式の変更で、今回から得点にはならないそうだ。
その技を行った瞬間、観客からとても大きな拍手が沸き起こった。おそらく観客はそれが得点にならないことや、新採点方式で荒川静香が高得点を取れなくなり、以前引退を覚悟したなどの経緯も知っていたのだろう。演技が終了したときのスタンディングオベーションも熱狂的なものだった。
私が興味を持ったのは、「なぜ荒川静香は点にならないことをやったのか」、「なぜ観客はそれに対して惜しみない拍手を送ったのか」だ。
彼女は会社で言えば、「評価制度では捉えられないレベルの自己実現に果敢にチャレンジしたハイパフォーマー社員」といえるだろう。信念で行動し、かつ自己責任で結果を出した。自分の役割を全うするために自分で進んでリスクをとり結果を出した。人事制度を超えた(評価を意識せず自分のやるべきことを理解し使命感を持って行動した)稀に見る優秀な社員だ。
政治学者の丸山真男は「自分は何をなすべきか。国家を超えた基準を持たないといけない。個人が内在する原理を持っていないと、時勢に流され、ひいては国を誤ることになる。」と言っている。住んでいる世界は違うが、同じことを言っているように私には思える。
また、陶芸家の河井寛次郎は「美を追わない仕事、仕事の後を追ってくる美」と言っている。自分の作品に銘を入れないことでも知られるこの作家は、自分のやるべきことを徹底して追求し、とことん中身にこだわった。
これも同様だろう。
しかし、こうした精神や仕事に対する取り組み姿勢を会社全体で共有しようとするのは、極めて難しい作業だ。「イズム」や「理念」が最近見直されているが、これからは理念や精神、風土や文化をどう創り育てていくかが、ますます重要になってくるだろう。
ルールのみで縛ろうとすると失敗する。企業文化やイズムが主体となり、それを横からルールで支えるくらいがちょうど良い。