市川人事労務コンサルタント事務所

よもやま話

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経営者のこだわり

私の知っている人の知り合いに保育園の園長がいる。
この園長は人物で、名前を言えば保育業界の誰もが知っているほどの人らしい。

その方が今ドイツに保育現場の視察に行っている。
毎日更新しているブログで先日「おもちゃを使わない保育」についての考察が載っていた。

一部を抜粋すると、『家庭の中ではおもちゃがあふれ、子どもたちは常にそれらのおもちゃで遊んでいるために、自ら創造したり、工夫をしたりすることが少なくなってきているのです。ですから、その依存から脱却させようという試みが「おもちゃを使わない保育」になっているようです。』ということだ。

要するに、本来創造性を育むためにあったおもちゃが、単に暇つぶしのためのものになってしまったことによる弊害を言っているのだろう。
ここでは使い方やその変遷について言及しているのだが、私はおもちゃそのものの質にも言えることではないか思った。

これを見て、真っ先に思ったのが最近のソニーとアップルの違いだ。

昔はソニーと言えば若者のあこがれの企業だった。
言ってみれば若者文化の担い手と言って良かったように思う。
斬新で大胆で、かつ痒いところに手が届く繊細さを持っていた。

それが今は鳴かず飛ばずの普通の会社になってしまった。

なぜか?

原因は簡単だ。
ゲーム機で当てて久々の大儲けをしたあたりからソニーの面白さが失われ、それまで会社を支えていた創造の精神が隅に追いやられ、効率と利益が最優先されてしまったことが全ての原因だ。

利益が出るというだけで、ゲーム機という「暇つぶしのための道具」にソニーの大切なリソース(人材と金と時間)を使い切ってしまった。
言い換えれば、広がりのあるもの(音楽や文化、芸術などの高次のもの)から広がりのないもの(ゲーム機に代表される低次の時間つぶし道具)へ舵を切ってしまったということだ。

その結果ワクワク感のない会社になってしまったのだ。

一方でアップルはと言えば、創業者のジョブスが復帰し、iPod、iPhone、iPadと、出すもの出すもの全てが空前の大ヒットで、あっという間に株価が20倍になってしまった。

この違いは何だろうか。

答えは「経営者の姿勢」だ。
経営者の価値観、もっと言えば人生観、世界観の違いだ。

「面白いものを作ろう」「世の中をあっと言わせたい」「独創性にこだわる」という感性を最優先したかどうかの結果だ。

以前のソニーにはそれがあった。
しかし経営者が代わり、創造性が徐々に失われていった。

アップルも一時、業績の悪化が進み危ないとまで言われた時があったが、その時に創業者のジョブスが戻って来た。
やはり創業経営者(あるいは創業者のDNA)というのは大事である。

歴代のソニー経営者の中に、「ゲーム機など暇つぶしのための道具に過ぎない。いくら儲かっても、これは天下のソニーがやることではない。こんなのは任天堂に任せて、ソニーはもっと意味のある仕事をするのだ。」と言えるだけの人物が一人でもいたら、素晴らしい会社になっていただろう。
本当に残念なことだ。

保育の現場で起こっていることと経営の現場で起こっていることの本質が繋がっているように思えて仕方がない。

いま人間が置かれている状況が影響しているのだろうか。
世の中が欲しているものは同じなのだろう。

経営者は今、人間としての原点に帰るべきなのかもしれない。

2010年7月3日

人事・経営編